あなたの血管大丈夫?
血管は年齢とともに姿をかえます。特に大動脈がこぶのように腫れる大動脈瘤は近年増加傾向にあります。放置すると大動脈瘤が破裂して、救命できない場合があります。しかし、恐ろしい病気でありながら、破裂するまでは普通ははっきりした自覚症状はありません。やせた方の場合は自分で腹部に拍動するしこりに気づくこともありますが、多くの患者さんは、人間ドックで見つかったり、他疾患で受診中に発見されたりします。
大動脈瘤にはどんな症状がでるのでしょうか?
恐ろしいことに、こぶが腫れるだけではほとんど症状がありません。しかし、一旦破裂すると、背部、腰部に堪え難い、強い痛みが走り、やがて急激な貧血のため意識が混濁します。すぐに救急車で心臓血管外科の緊急手術ができる病院に行かなければ、救命できません。従って、破裂する前、すなわち、症状が出る前に見つけなければなりません。
どんな検査方法が有効ですか?時間はかかりますか?
まずは体に優しく時間のかからない検査を行います。スクリーニング検査といいます。
■超音波検査
腹部大動脈瘤に対して有用です。体にやさしく、 痛みもなく、診断能力が高い検査です。15 分程度で診断が可能です。しかし、肥満している方は診断が困難な場合があります。胸部大 動脈瘤は肺の空気が邪魔をして、超音波では診断できません。
■単純CT検査
断層撮影といわれるレントゲン検査です。胸部も腹部も大動脈の瘤化を診断できます。5-10分程度で検査は終わります。レントゲンを浴びることになりますが、健康への影響はありま せん。
スクリーニング検査で異常が指摘されたら?
精密検査を行います。精密検査で手術に適合するか、どういう術式を採用するか、手術の難易度が判断できます。
■造影CT検査(3D-CT)検査
造影剤という薬を注射しながら、CT検査を行います。動脈瘤の存在部位、特に、内蔵血管との関係、瘤の範囲がわかり、手術の難易度の判定、術式の決定に有用です。しかし、ごく稀に造影剤にアレルギーのある方、腎機能障害のある方は安全のため、検査を受けることができない場合があります。担当医と相談の上、検査の可否を決めます。検査時間は10分程度です。
■MRI検査
体の細胞の磁気を検知し、画像にする検査です。レントゲンを浴びません。しかし、体に金属(人工関節、ペースメーカー、手術用クリップ等) が埋め込まれている方は検査できない場合があります。造影剤を使用するため、アレルギーがある方、腎機能障害がある方は担当医と相談の上、検査の可否をきめます。検査時間は(腹部、胸部各範囲につき) 30分程度かかります。
どんな治療方法が有りますか?
手術で、瘤化した血管を人工血管で置換します。 或は、人工血管と金属製(ステンレススティール)の内張りでできた、ステントグラフトをカテーテルを用いて、大動脈に内挿します。担当医が患者さんにあった治療方法を説明します。
スクリーニング検査は何歳で受ければいいのでしょうか?
手術を受ける患者さんの平均年齢は70歳(※最年少42歳、最高齢94歳)です。60歳を超えれば、検査をおすすめします。特に、高血圧、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳血管疾患(脳梗塞)の既往歴がある方は55歳以上で検査をおすすめします。
歩いて足が痛くなりませんか?血行障害かもしれません!
血管は年齢とともに姿を変えます。血管が狭くなり、あるいは、つまって、歩行困難、下肢壊疽に陥る閉塞性動脈硬化症という病気が次第に増えています。
欧米では多いこの病気も、元来、穀物、野菜を多く摂取する日本人には少ない病気でしたが、近年、生活スタイル、食事の欧米化、高齢化、ストレス社会の影響もあり次第に我国でも増加傾向にあります。
全身の動脈は
内膜 中膜 外膜の3層構造で成り立っています。内膜は平滑ですべすべで、プロスタグランジンという血液を固める成分の血小板の働きを制御し、かつ血管を拡張させる成分を分泌しています。中膜は平滑筋ででき、神経の制御を受け拡張したり、収縮したりします。外膜は外套のようなものです。本来ゴムの様に弾性に富み、心臓の収縮拡張の拍動に合わせて、動脈は拍動を繰り返しています。しかし、加齢、環境因子により酸化変性したLDLコレステロールが内膜に沈着し、その結果炎症反応が起こり、内膜が傷つき血小板血栓が形成され、内腔が狭く、血管壁は硬くなっていきます。これがいわゆる動脈硬化といわれる変化です。これを促進する環境因子として喫煙 ある種の害的脂質(トランス脂肪酸)の摂取 血管を収縮させる交感神経の緊張状態の常態化[ストレス]、過剰な酸素摂取も一因となります。
最初に出る症状は?
歩くとふくらはぎが重く、痛くなり、休むと良くなり、再び歩くとまた痛みがでます。初期には血管の病気と気づかず、湿布、痛み止めで対処したり、経過を見たりします。この時期を間欠的跛行期と言います。無治療で放置すると次第に跛行距離が短くなり、100m前後しか歩けなくなり、生活に不自由を感じるようになります。腰部から大腿の痛みは血行障害でなく、脊椎缶狭窄のような整形外科的疾患の可能性があります。
さらに進行すると?
間歇性跛行期に適切な治療が行われないと、じっとしていても足がしびれ、痛くなります。正座を長時間したと同じ症状です。さらに、進行すると足部・趾に冷感、色調変化、潰瘍が出現し、最終的には壊疽に陥ります。虚血の重症度をあらわす簡潔な分類がFontaine分類です。
どんな検査方法が有効ですか?検査はつらいですか?
まずは大腿部、膝の裏、足背、くるぶしの脈の触診、視診(皮膚の色調)を行い血管の病気かどうか診察します。血管の病気が疑われた場合、体に優しい無侵襲検査法を行います。
■無侵襲検査
下肢血圧測定検査(ABI)、皮膚還流圧(SPP)トレッドミル(ベルトの上を歩き、歩行できる距離を測定する検査)、血液検査等を行います。
■低侵襲検査
【造影CT検査(MD-CT)検査】
造影剤という薬を注射しながら、CT検査を行います。血管のつまった部位、狭くなった部位、血管の硬さの存在部位を評価できます。この段階で、病気の程度、適切な治療法の判断がおおよそ可能となります。しかし、ごく稀に、造影剤にアレルギーのある方、腎機能障害のある方,ある種の糖尿病薬内服中の時は安全のため、検査を受ける事ができない場合があります。担当医と相談の上、検査の可否を決めます。検査時間は10分程度です。
【MRI検査】
体の細胞の磁気を検知し、画像にする検査です。レントゲンを浴びることはありません。しかし、体に、金属が埋め込まれている方、(人工関節、ペースメーカー、手術用クリップ等)は検査できません。造影剤を使用するため、アレルギーがある方、腎機能障害がある方は担当医と相談の上、検査の可否をきめます。検査時間はCT検査に比べ長く、30分程度かかります。
■侵襲的検査
【選択的血管造影】
カテーテルというボールペンの芯程度の太さの管を腕或いは大腿の血管から腹部大動脈・下肢動脈内に誘導し、下肢の血管を造影剤を注入しながら、レントゲンをとります。現時点で最も精密な検査です。1−2日の入院で検査を行います。CT検査と同じく造影剤にアレルギーのある方、腎機能障害のある方は安全のため、検査を受ける事ができない場合があります。担当医と相談の上、検査の可否を決めます。検査時間は60分程度です。
どんな治療法がありますか?
重症度或は病変の部位で治療法が異なります。
・前述のFontaine分類IIの場合は薬物療法、運動療法、血圧、 脂質管理で病状の進行を食い止めることができます。緊急を要しませんし、適切な治療を受ければ、足が壊疽に進行することは稀です。血管内治療、バイパス手術で元通り歩くことも可能です。
・Fontaine 分類III /I Vの場合は緊急に血管内治療/バイパス手術等の外科的治療が必要になります。壊疽部は切断し、感染の防御を行います。リハビリを要するため、入院は1ヶ月以上かかる場合があります。血管内治療は体に優しい低侵襲治療ですが、大腿部、膝窩部等行えない部位があります。そこは外科的治療が長期開存成績の期待できます。
・再生療法
血管内治療・バイパス手術の外科的治療が困難な場合に限って行われます。下肢筋肉内に血管を新生する薬を8-10カ所注射を1-2ヶ月の期間を開けて2-3回行います。注射はコロナビールスの予防接種と同様です。血管内治療、手術、再生医療の選択は患者さんにとって最も有用で安全な治療を選択します。両方を行っている医師(血管外科医)の診断を受けましょう。例えば、膝上の長い閉塞病変や、膝下の細い血管にカテーテルを通しても、早期再閉塞の頻度が高くなります。一方バイパス手術は全身麻酔下、手術時間が長くなりますが、5年開存率、膝上80%、膝下60-70%の開存が期待でき、虚血性潰瘍の治癒も早くなります。それぞれの治療の利点、欠点の説明を聞きましょう。
血管の病気と同じような症状が出る病気はありますか?
整形外科的疾患でも似たような症状がでます。特に、腰部から大腿部の後ろに痛みがでたり、しびれがある場合は整形外科的疾患(脊椎感狭窄症、腰椎ヘルニア等)が考えられます。両方の病気が併存している場合も有ります。
特に気をつけていただきたい方は?
高血圧、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、糖尿病で治療中の患者さんに本症の発症頻度が高くなっています。下肢の診察を受けましょう。
してはならない事は?
喫煙は病状を急速に増悪します。正座、あぐら等長時間足を曲げないで下さい。
食事で気をつける事は?
黄緑色野菜、繊維の多いもの(茸、海草)を食事の最初に、次に青魚、動物性たんぱく(豚、羊肉)の摂取を行いましょう。最後に、炭水化物(玄米、麦入りが望ましい)を適度に取りましょう。
運動はしてもいいですか?
歩行で足が痛くなるため、ついつい出不精になる方がいます。運動、歩行は側副血行(迂回路)の発達を促し、歩行距離が延びることが証明されています。ふくらはぎの痛みが出るまで、歩き、休んで、また、歩きを一日30分程度を推奨します。