令和1年8月コラム
支援相談室 主任 金野 友紀子
昨今、介護の現場では高齢者の方々の生活上の課題や支援上の障害は大きく様変わりし、
20年前と比べると高齢者の皆さんが安心して安全に生活ができるためにご自身やご家族が取り組むべき課題、
そしてケアマネージャーやソーシャルワーカー、サービス提供事業所など支援者が取り組むべき課題の内容や質も
ガラガラ変わりつつあると強く感じます。それは介護保険制度のうねりとともに更に加速し、制度もより複雑になりました。
今では介護保険を利用する方々も、サービスを提供する人々も、制度そのものに疲れてしまっているようにさえ見えます。
介護保険元年には、現在のような状況が想像さえできませんでした。
【目の前が煩雑になると、ふと思い出すことがあります。私が在宅支援に携わっていた頃の古いお話です。 毎月ある女性のお宅を定期訪問していました。お宅の居間や縁側でお嫁さんも交え、暮らしの状況や困りごとを伺ったり、 必要に応じて介護や制度の情報提供をしたりしていました。毎回お伺いすると、私が帰るときには必ずシルバーカーを押して 外までお見送りをしてくださいました。訪問を終えて女性とご家族にご挨拶をし、退室して訪問車に乗り込み、 また車窓から顔を出してお別れをします。車でお庭を出るあたりにサイドミラーを見ると、女性はいつも両手を 擦り合わせて目を閉じていました。訪問するたびに何か温かい気持ちでお宅を後にしていた記憶があります。 それは支援者としてこの女性へのかかわりが終わるまで続きました。 後々、お嫁さんから「おばあちゃんね…金野さんがウチに来ると(訪問を終えて)帰るときに、 『行ってらっしゃい…病気やケガをしませんように…。』って手を合わせてたんだよ。」と、お話を伺いました。 そのとき、女性のこんな暮らしを守りたい、こんな気持ちを大切にしたい…と、そう思いました。 今も、お一人お一人の暮らしや、そこに必要な支援を考えるときに最も大切にすべき主幹が何であるかを 思い起こさせてくれるエピソードの一つです。
日頃、「支援をする」「サービスを提供する」という立場にくくられていますが、年齢を重ねるにつれ、どなたかの人生や生活の一部に触れさせていただいているという畏れがますます膨らみます。その反面、たくさんの方々とのかかわりの中で豊かな人生経験や心の通った人の営みをわけていただける幸せもより強く感じられるようになりました。これからも相談員として、ご縁があった方々のお隣りか…またはちょっと斜め後ろあたりでそっとお手伝いをさせていただきたい…そんなふうに思います。