Column

病院長コラム

新型コロナウイルスワクチンについて

ようやく、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの接種が始まりました。

本邦で新型コロナウイルス感染症患者が報告されて1年以上が過ぎましたが、何かとネガティブな報告が相次ぐなか、一つの光が見えてきたと言えるかもしれません。ただ、ワクチン接種に対して懐疑的な意見も確かにあります。人類初のmRNAワクチンであることや、十分な安全性を確かめないままで認可が早すぎるのではないか、特に若い人や女性にとって将来的長期的に妊娠や脳神経機能に本当に悪影響はでないのか、副反応、ことにアナフィラィシーショックの可能性に対する恐怖、接種してもいつまで有効かわからない、ワクチン接種率が70%以上になって初めて感染が収束すると考えられる中その達成がおぼつかないのではないか、等々、枚挙に暇がありません。結局メリットとデメリットを比較して最終的には自分で決めるようにと言われていますが、報道などではデメリットの方が強調されすぎているような気もします。
メリットについて考えてみると、①(特に高齢者では)新型コロナウイルスに感染して重症化したり、死亡したり、後遺症を残す危険性が、ワクチン接種にまつわる種々のデメリットよりもはるかに高いと言えること、②アナフィラキシーショックはすでに報告されているものの、起こった際の処置を充分準備して医療機関は予防接種を行うように義務づけられており、いまのところ(ワクチンが直接原因となった)死亡例はないこと、③自分だけではなく、家族や職場で接する人への感染のリスクを減らし、安心感さえ与えうること、④クラスターの発生確率も減り、学級閉鎖や職場閉鎖に及ぶリスクが減り、自分の所属する社会を守ることになりうること、⑤なんらかの催しや施設に入るための証明に使われる可能性があること(コロナに限らず、以前より、ある外国への入国には種々の感染症の予防接種が勧められ、あるいは義務づけられているものもあることはご承知のとおりです)、⑥今回受けないでいると受けるチャンスは当面来ないこと、などがあげられ、医療の立場からは「ワクチン接種を勧める」ことが大方の意見です。
エドワード・ジェンナーにより人類初のワクチンとも言える「種痘」が行われたのが、1796年、当時も医療界では強力な反対意見もあったと言われています。しかし、ワクチン接種が行われる前には、海外では天然痘で300万人が死亡、本邦でも年間約2万人にも及ぶ死者が出たという記録があるなかで、ワクチンのおかげで結局1980年WHOは天然痘世界根絶宣言を出すに至っています。それと同じで、人類にとって新型コロナウイルス感染症への挑戦がいままさに始まったと言える中でのワクチン接種である、と言えるのかもしれません。

2021年3月
赤羽中央総合病院・院長 廣 高史