新型コロナウィルス感染症の波が各地に次々と押し寄せています。ワクチンが開発途上にあるなか、一方でこのウイルスは2週間毎に遺伝子型が変化していくと報告されており、当分の間、ウィズコロナ時代は続いていくものと思われます。その時代にあって、私達は単に不安に怯える生活ではなく、どうこのウィルスと付き合っていくか、いわゆる「ネオライフ(新生活様式)」を考えていかねばならなくなってきています。その中で3密解除やソーシャル・ディスタンスなどが今やおなじみの言葉となってきていますが、それ以外にも、何が私達の生活に必要不可欠なものなのか、すぐには不要ではあるが人生を豊かにするために必要なものは何か、そもそも不要なものは何かなどが、一気に私達の生活の中でふるい分けされてきているように思います。ただネオライフを考えるに当たって、何よりも大切なのは「正しく怖がること」だと言えましょう。今のはやりの言葉で言えばファクトフルネス(FACTFULNESS)と言えるでしょうか。
つまり、信頼できるデータを用いて冷静かつ客観的に世界や日本の現実を見つめ、評価し、それに基づいて行動することです。
新型コロナウイルス感染症は確かに怖い病気です。特に高齢者ほど重症化し致命的になる方も少なくありません。すでに現在までに日本では1300人もの貴い命が失われています。ただ、死者数で言えば、インフルエンザは関連死を含めて年間1万人、肺炎では年間10万人、結核では約2000人、あるいは交通事故では約3000人(以前は年間1万人の時代がありました)の方々が亡くなれていて、その数から見れば新型コロナウイルス感染症よりも注意すべきものが数限りなくあります。つまり、新型コロナウイルス感染症は、全く恐るるに足らない病気というわけでもなく、かといって恐怖におののくほどの感染症というわけでもないことがわかります。むしろ数限りない生命を脅かすリスクの一つに今回新しく加わったと考えるべきです。しかしマスコミによる過剰な煽りにより、日々の新型コロナウイルス感染者数が今の生活の基軸になっているように見えますが、人間の生命を守るために考えるべきことは実はたくさんあることを忘れてはならないと思います。となると、新型コロナウイルスのことばかりを考えるのではなく、あらゆるリスクを正当に評価し、それをすべて回避すべく一日一日最善を尽くして精一杯生きていくことが何よりも大事だということになります。
風評により、病院はただただ危険な場所というイメージが大きく広がり、慢性病を抱えた患者さんの定期的受診が明らかに減っていますし、とくに小児科などでは、予防接種にすら子供を受けに来させない保護者の方が増えていると聞きます。確かにそれらはすぐに問題にはならないでしょうが、後になって、それらの疾患がことのほか重症化し大きな犠牲を払うことになりかねません。また万一そのような方が新型コロナウイルス感染症に罹患するとかえって重症化しやすいことも示されています。つまり、新型コロナウイルス感染症をいたずらに怖がったために、日々最善を尽くして生きることをおろそかにしてしまった代償を強いられることになるわけです。検診も然り、インフルエンザのワクチン接種も然りであり、あらゆる疾患についての定期的受診も含めて、今自分ができる最善のことは何かを常に考えて行動していただくことを切に祈ってやみません。そして私共としては、心から安心して病院に来ていただけるように、最善の衛生環境を維持するべくたゆまぬ努力を続けたいと思っております。
2020年9月
赤羽中央総合病院・院長 廣 高史