Column

病院長コラム

「風鈴」

今年は梅雨の前から猛暑が訪れています。

風鈴の 一つ鳴りたる 涼しさよ  (高浜虚子)

風鈴の音、ここ最近は殆ど耳にすることはなくなりました。皆、窓は閉め切り、エアコンが全力稼働中、風鈴の音を心静かに聞きながら夏の暑さを「風情」として感じることなどできない世の中となりました。大気中の二酸化炭素の増加が本当に原因かは疑問視する向きもあるものの、地球温暖化は確実に進んでおり、日本ももはや温帯地域から熱帯地域になったかと思うほどの暑さに見舞われていて、当然のことながら熱中症の発生が急増しています。

健常なヒトの深部体温は、平時の環境では約37度になるように調節され、日内の変動幅も1度以内と、極めて精緻にコントロールされています。周囲環境が暑くなったり高温体が近くにあると、ヒトは熱を吸収し体温が上昇しようとするわけですが、脳はそれを関知すると、自律的に皮膚の血管が拡張して血流量が増したり発汗することによって、体内の熱を周囲に放散しようとします(自律的体温調節)。さらにヒトの場合は恣意的にエアコンを利用したり、衣服を替えたりして暑さを和らげようとする行動に出ます(行動性体温調節)。しかし、これらの調節機構が追いつかなくなると、体の恒常性が破綻し熱中症に至るわけです。厚生労働省が発表している最近の統計(2022年)では、熱中症による死者は全国で1500人近くに及び、うち65歳以上の高齢者が86%にも上ると報告されています。高齢者が熱中症にかかりやすい理由は、皮膚の血流量や発汗量の調節能力が低下していること(反応の低下)、体内の水分量が少ないこと(血流量や発汗量の低下)、のどの渇きを感じにくくなること(水分補給の遅れ)、暑さ自体を感じにくくなったり冷房に対する贅沢意識や節電意識などによる行動性体温調節の鈍化などがあげられていますが、それだけ高齢者においてはより積極的な熱中症の予防対策を講じる必要があるわけです。

当院は、新築移転をして早2年半、旧院に比べて救急治療をより積極的に行うようになり、救急車の応需台数も年間3000台近くにまで増えました。当然のことながら熱中症になられた方々も多数運ばれてきており、できうる限り地域の皆様をお守りすべく職員一同全力で診療に当たっております。また救急に限らず、あらゆる方々が気軽にお立ち寄りいただけるように、室内環境にも十分配慮し、風鈴の音色を聞いて安らいだ時を彷彿とするような「涼しい安心空間」を提供できる場所にもしたく考えており、ますます皆様に信頼される病院になれればと思っております。