Column

病院長コラム

「夏の病気」

暑い日が続いています。9月になっても、当分「夏」は続くと言える勢いです。

これまで季節ごとに「かかりやすい病気」というものがあることを医療関係者の間では経験的に知っていて、四季折々の事象を見ながら、そろそろその病気にかかる患者さんが増えるなと予期し、ある程度の心準備をしていたものです。気温、気圧、湿度、日照時間と、その変化(昼夜間の変動等)によって季節独特の体調の変化が生じ、血液の濃縮度や成分比率の変化、自律神経系の変調、免疫能の低下などにより、特定の病気の発症しやすさが異なってくるからだと推察されます。ただ、この夏のように、夏がより暑くより長い期間にわたるようになると、季節に特徴的だった特定の病気も長期にわたってしかも多くの患者さんが罹患・発症するようになるわけです。

特定の季節に流行る病気というのは、夏では手足口病、冬ではインフルエンザなど多くの感染症で見られますが(新型コロナウイルス感染症は通年にみられます)、感染症以外の病気にも多々見受けられます。特に心筋梗塞や脳卒中など心臓血管系の病気は、1年中みられるものの、季節によって多い少ないが明らかにあります。報告によりまちまちですが、これらは特に冬に多いだけでなく、おそらく脱水が契機と思われますが夏場にもしばしばみられます。

意外にも、消化器系の病気にも季節性があると言われています。その一つが急性胆嚢炎です。2021年、診断群分類別包括評価(DPC)に基づく全国の主要病院から集めたデータの解析結果が報告され、その中で、急性胆嚢炎発症における気温の影響が検討されました。それによりますと、摂氏5-10度に比べて、気温が上昇するにつれて本症の発症リスク比が増加し、30度以上が最も高く、すなわち急性胆嚢炎が夏に発症しやすいことが明らかにされています。気温の上昇により、血液だけでなく胆汁も濃縮されるのが原因ではないかと言われています。急性胆嚢炎はそのほとんどはふだんから胆石をお持ちの方がなりやすいと言われている疾患ですが、胆石がなくても起こることもあり、発見・対処が遅れると胆嚢破裂、腹膜炎などを併発し、命にも関わることがある病気です。つまり、夏場の腹痛は夏バテや食あたりだとすぐに決めつけず、急性胆嚢炎ではないかと考える必要があるわけです。

この夏、当院では多くの急性胆嚢炎の患者さんを収容し、最新の腹腔鏡技術を用いた緊急手術を行ってまいりました。その中には1日発見が遅れていたら命に関わっていたと言える患者さんもおられ、当院の外科チームの迅速な対応により事無きをえました。私共では、このような種々の病気の季節的流行にも対処できるよう、万全の救急体制を敷いていきたいと思っております。